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雄一老見聞録

第十回 『ベンチ その三』

 カットマンに勝って、次の試合は、ロングマンです。
 確か、ランク決定だったと思います。

 この辺の試合になると本当のところはベンチに入りたくないのが本音です。特にランク決定なんかは.....
 変なアドバイスをして、放って置けば勝てる相手に負けさせる様な事があってはならないと、プレッシャーが掛かります。

 それまでに、よけいな事を言ったばかりに、楽に勝てる相手に苦戦させたり、勝てると思った相手に負けさせたりと、反省する事ばかりが続き、一時はベンチに入るのが苦痛になった時期がありました。

 その苦痛の時期を乗り越えることができたのは、クラブの先生のアドバイスでした。

 「試合は子供がしているのだよ!!」
 「あんたが、試合をしているのではないんだよ!!!」
 「あんたの頭ではなく、戦っている子供になっての組み立てなら良いけど!?」

 そうなんです。大きな間違いをしていたのです。
 ベンチで試合を見ながら、相手に対して如何にすれば勝ちやすいかの案は立てられます。

 が、さて、その案を選手が実行可能か?と言う一番肝心な事を抜かしての、「ベンチのアドバイス」では、勝てる相手に勝てなくしてしまう可能性を含んでいる事に気がつきました。

 練習中でも出来てない事を、試合でやれ!!と言ってもそれは無理と言うものだと気がついたのです。気がついて、反省してみると、冷汗百斗!!でした。 よくもまあ大きな顔をして、ベンチに入って、もっともらしくアドバイスをし ていたものだと....比較的子供がいい成績をあげてくれていたものですから、 いい気になっていた時期もあります。
 赤面の至りです。私のアドバイスで勝ったのではなく子供の力で勝ったのを.... 勘違いも良いところですよねーーー!!

 子供が試合で勝つのは、子供の力、負けるのはベンチのせい!!と結論出してからは、気楽にベンチに入れるようになりました。

前置きが長くなりました。

 試合は取って取られて、1−1になり、3セット目後半のラリーで、自分が有利に立ちながら相手のネットが2本連続入って、べそをかき始めました。
 11本ゲームで2本は大きいです。
 涙は出ていないのですが、顔がゆがんで、今にも涙がこぼれそうになっているのがわかります。

 この子がこのような状態は始めてです。今まで一回もべそをかいたのは見たことがありません。
 試合は、その後競ったのですが、落としました。

 ベンチに返って来るなり、「まだ試合は終わっていない、泣くんだったら負けてからにしろ!!」と叱りました。
 4セット目は、やや有利に試合が進んでいるとはいえどちらがとってもおかしくない接戦でした。
 終盤、一本カバーが入ったら、相手の子がわずかに顔をしかめました。

 そのセットも競り合いになりましたが取りました。
 返って来るなり「先生、あいつ、カバーでべそかいた」と一言。

 "勝った"と思いました。

 5セット目、今でも鮮やかに覚えています。3−2でリードしてサービスが相手に渡りました。
 相手はボールを持って、プレーボールからやって来ている、バック側からフォアハンドサービスを出す構えをしかけたと思ったら、急にバック側から、バックハンドサービスの構えに変わりました。

 一瞬考えたのは、(相手は右効きのシェークハンドです。)

 1.早いロングサービスはまずないだろう。一番怖い、早いロングサービスを
   出してショートさせられて一発はないだろう。これをやられたら、仕方な
   い、うちの子の反応だけが頼りです。

 2.ロングサービスの場合は横回転・下回転かもしれない、横回転・下回転の
   ロングサービスを出してくれたら、一点頂き。最近は滅多にお目に掛かり
   ませんが、私の主戦サービスでしたので、練習の時にたくさん練習させて
   いましたので大丈夫だ、と思ったのです。

 結果は、フォア前のショートサービスでした。
 出された瞬間「やられた」と思いました。が、ネットミスでした。ほっと胸を撫で下ろしました。

 相手の子の顔がゆがみました。

 次のサービスは、と見ると、バック側に回り込みながらフォアハンドサービスの構えを造りながら、また、上を見上げています。
 そして、また、バック側にバックハンドサービスの構えに変わりました。

 もう一本来るな!!と思いました。案の定フォア前のショートサービスです。さて、うちの子はどう処理するか??
 またもやネットミスです。
とたんに、顔がゆがんで涙がジワーーー、しゃがみ込んでしまいました。

 試合はそこまです。

 私のベンチの後ろの二階観覧席から、サインが出ていたようでした。

 この二本のサービスのサインを出して頂いたお陰で勝たせて頂きました。

 この二本のフォア前ショートサービスが、入ったとしても、それはそれで、一つの勝負で、どちらが勝ったかはわかりません。相手が有利になったかもしれないし、互角になったかもしれません。こちらがもっと有利になったかもしれません。
 こちらが有利になる可能性は少なかったと思っています。なぜなら、うちの子には、フォア前からの相手の攻めに対して受けの経験が、少なかったものですから。
 今までのサービスでは勝ち味がないと思われたのか、勝負をかけられたのか?私の後ろの二階におられた相手選手のチームのえらい方がサインを出されたのでしょう。

 この、二本のフォア前サービスは、こちらのベンチが考えること、あちらのベンチが考えること、その上で、こちらの選手が出来る範囲の技術で戦術をたてなければ、ならないことを痛感致しました。

 それまでは、こちらの選手に何をさせようかとばかり考えていました。

 よく考えてみると、相手がいること!!しかも相手ベンチがいることも無視して自チームの選手の出来ることを無視して、ベンチが自分勝手に作戦を立てて、子供にああしろこうしろと言って、負けたら選手のせいにして「こうしろと言ったのにその通りしなかったんで負けた、言った通りにしていれば勝てたのに」とのベンチの自己弁護!!冷汗百斗

 この二人、今年大学生になりました。

 続く

 次回6月末予定

雄一老(yuu@Pingpongfan.net)


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