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雄一老見聞録

第九回 『ベンチ そのニ』

 無い知恵をフル回転させて見ますと、先生は今、6年生の子のベンチに入っておられるが、一セット目を楽勝していたので、二セット目も短時間にすむだろうと計算しました。ベンチで支度をしている子供に、

「先生、すぐに来てくれるから、それまで、時間を稼げ!!絶対に無理打ちしてはいけないじっくり時間を掛けろ!!チャンスボールが来ても得意なコース以外は打つな!!一本打って返って来たら突っつけ!」

 情けない事ですが、カットに勝つためのアドバイスは私には出来ないのです。逃げ!!逃げ!!時間稼ぎ!!先生のこられるのが一分でも早いことを祈るしかありません。早く6年生の子の試合が終わるのを祈るだけです。私にはそれしか出来ないのです。

 一セット目9−10でリードされている時点で先生が来られました。長いラリーの末にミスして一セット目を落としました。
 ラリーの間に、このように言っていますと、先の情けないアドバイスを報告をしますと「それで良い」の一言、9−10からの一点の取り合いのラリーを見られて、私の報告を聞いて、子供ががベンチに帰って来ますと、子供に聞こえるように大声で「この試合は勝った」の一言。

 また、現金なものです。子供の目の輝きが違います。この辺は信頼感の違いだなーーと痛感しました。元世界チャンピオンと、私では!!!無理もない事です。本来はいけないことなのですが、ベンチを交代して勉強のために、フェンスに隠れて、目だけ出して、試合を見ながら、セット毎の先生のアドバイスを聞いていました。

 「ミドルからフォア側へ来たボールだけ打て。バック側のボールは無理打ちするな、そして全部フォアに打て、一球打って返って来たら突っつけ、これを繰り返せ!!連続打つな!」とのアドバイスでした。

 その時は一生懸命に聞いてメモしました。このゲームに対してのアドバイスではあるのですが、対カットの戦い方についてこの短いアドバイスの中にいろんな意味を含んでいることに気づいたのは後日このメモを整理したいた時でした。

 二セット目長い時間掛かって取って
 三セット目苦戦の末取って
 四セット目取られて、セットオールになりました。

 私は、カットマンに対しての一番悪いパターンになって来た、これはやられたのではと思いました。だいたい、3セットの試合ですと一セットとって、二セットリードして終盤にひっくり返されたら、三セット目は、やらなくても良いといわれているのに、4セット目を取られたので、やばいと考えたのです。

 が!!!

 4セット目を落として選手がベンチに帰って来るなり、「勝った」と一言。
 「打てると思ったらフォアでもバックも連続打て」の指示が出ました。
 五セット目が始まりました。
 眼を疑いました。
 一本打って、二本目を打つとノータッチです。特にバック側を回り込んで打つとノータッチです。2・3・4セット目までとは全く違った展開になりました。もう私が見ても負ける心配は全くないことがわかり安心して見ておられました。

 4セット目までの一本打っては突っつき、一本打っては突っつきの作戦は、カットは一本も打ってないのです。 突っつきだけを打っていたのです。 安全策とセットオールで勝ちにゆくための作戦でもあったのです。このままで4セットで勝てれば良いしもし、4セット目を落としても、5セット目では安全に勝てるように、安全策がとってあったのでした。

 4セットまでは、連続2本目は打ちませんと宣言して戦っていたようなものでしたから、相手の選手にとっては2本目は打って来ないので安心して、「カットしたら、前に出る、カットしながら前に出る」の連続で4セットをやって来たのです。そのパターンになれてしまっています、そこへ、5セット目に入るや、いつもの通りをカットしながら次の突っつきに備えて、前に出ようとしたところで打たれるものですから、ノータッチで抜けます。

 しかも、今までは打ってなかった、バック側のボールを回り込んで打たれるわ!しかもその上、クロスだけに打たれていたのに、ストレートへも打たれる!、相手の選手にとって五セット目は晴天の霹靂であったのかも知れません。

 カットを打ったのは5セット目に入ってからです。突っつきのボールは打ってもカットは一本も、といって良いほど打ってなかったのです。

 先生は、試合が終わってから「良い選手だ、あのカットは打てるが、最後までうち切れるかどうか、最後はうち切れないような気がする」とまず相手のカットの子を誉められました。
 そして、「やはり一人良いカットマンがいたね、たぶんこれで優勝だね」の、言葉通り、前回書きました様に優勝いたしました。

 この子は、私の自己紹介で書いています、カブ優勝・ホープス2位・カデット13歳3位・カデット14歳優勝・全中シングルス優勝・去年インターハイシングルス3位の子です。この子は私に卓球の勉強をたくさんたくさんさせてくれました。

   この子達は今年の春、大学生になります。

 次のランク決定の試合もベンチの私にとって、大変良い勉強をさせて頂きました。
 次回はそれを書かせて頂きます。

 続く

 次回4月末予定

雄一老(yuu@Pingpongfan.net)


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